JBCC2019グランドファイナル審査員 講評


フロンティア・マネジメント 株式会社

代表取締役 大西 正一郎 様

 皆様、3か月間、大変お疲れ様でした。今日は、非常にレベルが高い内容だったと思います。非常に感銘を受けています。私は、この大会に参加するのは5回目です。当初は、事業再生の案件のケースが使われていて、戦略面は当然ですが、構造改革やそのキャッシュフロー、特に有利子負債倍率がどうかという点がフォーカスされていたのが特徴的でした。今回は、上場している数千億の企業で、しかも、テーマとしてはグローバル、それから農業と、考える要素が非常に広く、ある意味難しさもある反面、考えやすい面もあったのかなということで、今回は、非常にバラエティーに富んだ提案がなされたように思います。

 若干コメントさせていただきます。優勝された、林チーム。本当に素晴らしかったです。私が聞いていて、フィット感があり、現実の経営の場におけるプレゼンのようにきちっと戦略を立てていて、切るところは切って、絞り込むところは絞っており、確か中国進出をしないなど思い切った戦略が立てられていました。あれがいいかどうかは別として、可能性があることを全てはできないのが実際の経営なので、そういう意味では、何かにフォーカスをして、しかもその強みを生かすというところで、非常に徹底された、素晴らしい内容だったと思います。

 それから、準優勝の神戸大学チーム。ここも非常にバラエティーに富んだ、バランス面で非常に良かった提案でした。ここのチームだけが、株価のところも触れられていましたね。上場企業の場合、経営者が気にするところは、もちろん売上や利益もありますが、株価をどう上げていくかが大事です。PBRが非常に低いとか、そういうところも触れられており、良かったと思います。10年後の売上高目標が2,500億円というのは、ちょっと小さいかなと思いますね。実際の事業会社の経営においては、本当はもうちょっと、現在の売上(2019年度2,255億円)から1,000億円ぐらい上げる提案の方が多いと思うのですが、堅実かつ現実的なプランの提案であり、非常に良かったかと思います。

 最後に、いくつか賞をもらっていた、大岡チーム。非常に夢がある提案で、サトウキビと植物工場ですね。これもフィージビリティーは別として、そういうものが実現できるというのが、今は現実的ではないかもしれないけれど、もしかしたら会社の10年後を変えるというような可能性があり、面白い内容だったと思いました。私は感銘を受けました。総じて、大変素晴らしい内容だったと思います。どうも皆さん、お疲れ様でした。以上でございます。


コーポレート・ドクター 株式会社

代表取締役 大川 康治 様

私が担当させて頂いてから今年で早や7年が経ちました。会全体としては10年目だと思います。そして、年によっていろいろ特色がありました。大西さんも仰っていたように、最初のころは再生のケースが多く、どう会社を改善するかという純粋な再生案件が多かったと思います。それが今年はテーマが業務改善のケースに移ってきており、最初からすると「問題意識も変わってきたな」というのが実感です。業務改善ということになりますと、なかなか難しい面があって、課題に取り組んだ学生の皆様もご苦労されたのではないかなという感じがいたしております。

 コメントを申し上げますと、今回の課題については、いわゆる、機能材という、農機具の機能をどのように展開していくのかということが問われておりました。

今までの様にものづくりの場合は、例えば、自動車産業の官能財といいますか、自動車のスタイルであるとか、内装であるとか、そういうものが中心にあったわけですが、今年の課題は、農機具の機能にポイントを置いて考える必要があったのだと思います。その上で、農機具の機能を展開していくことによって、最終的には米作りにたどり着くということ。

米については、いわゆる、刈り取るとか、または米をうまく生産するための、技術力の検討も必要だったのではないかなと思います。

いくつかのチームは、米作りを扱っているところがありましたが、もう一歩掘り下げた分析があったらもっと説得力のあるプレゼンが出来ていたと思います。

それにつけてもJBCCのスタート時点と比べると、皆さん、格段の進歩をしておられるという感を深く致しました。

 それから、事業計画を作成することについては、外部環境を捉えた上で、実現可能な事業戦略を立てることが必要だと思います。もう一歩の掘り下げがあれば、より現実的でリアルなアプローチが出来たのではないかと思います。

 最後になりますが、JBCCの様な皆で切磋琢磨する会が非常に重要だと常に思っております。

 私事になりますが、1999年の暮れに、グロービスのインターネット・マネジメント・スクールに参加いたしました。そのときのケーススタディが、Amazonドットコムと、バーンズという米国の書店のどちらが10年後に生き残っているか云う課題でした。私の記憶では、半分か、それ以上の学生さんが、バーンズが生き延びるということだったのですが、今振り返ってみますと、この10年間、Amazonドットコムの勢いというのは大変大きく、世界をこれだけ席巻しております。その当時としては、誰も考えられなかったようなことが起きているわけですが、今日皆さんも勉強したことが、10年後、又は10年たたないうちに、おそらく考えていた以上のことがこの世の中に起きると思いますので、今日だけでなく、これからも是非、研鑽を積んで頑張っていただきたいと思います。

今日は、どうも皆さん、ご苦労様でした。

 

 


DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

編集長 大坪 亮 様

私は審査委員4回目ですが、今回がこれまでで最も、審査員の評点がばらけたかなと思います。レベルが高い争いで、それぞれが推すチームが違ったということです。

 講評は、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー賞の受賞理由についてだけ申し上げます。50年前の本日、日本時間721日に、人類はアポロ11号で史上初めて月面に着陸しました。偶然にも、810日発売の『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』9月号の特集は「ムーンショット」です。そこで、ムーンショット発想のチームに賞をお贈りしたいなと思いました。

 対象は、2つのチームでした。植物工場事業を展開するなど夢のある話をされたチームと、オーストラリアという、冨山さんがお話されたように、かなり難しい市場への進出を構想したチーム。後者は、私も無理があるなとは思ったのですが、大いなる野望というか、農業大国オーストラリアに、日本の農機メーカーが進出して、しかもIT系スマート機器で成功すれば、素晴らしいなと思い直しました。

 是非、クボタやヤンマー、井関農機が、これを実現してくれたら嬉しいなという期待を込めて、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー賞を、ムーンショットな、オーストラリア進出を構想した安達チームに差し上げました。

 皆様、お疲れ様でした。

 


経済産業省 産業創造課

課長 金指 壽 様

 ファイナルにご進出された皆様方、また、内容を全て拝見できている訳ではありませんがご参加されました119チームの皆様方、本当にお疲れ様でした。一つ一つのプレゼンを拝見しておりましても非常に内容が濃く、一体準備に何時間かかったのかを想像しても、大変なプロセスだったのではないかと思っております。

 私は、今日、経済産業省という立場で来ておりおりますが、一点だけお話をさせて頂ければと思います。経済産業省産業創造課長という現在の役職を拝命したのは、2週間前なのですが、その前は3年間、アメリカのロサンゼルスに駐在しておりました。日系企業の皆様方、シリコンバレーが大好きで、シリコンバレーに拠点を出してはなかなか思ったような活動ができずに苦しんでらっしゃる方も非常に多く見て参りました。そうしたシリコンバレーの動きも含めて、ロサンゼルスからアメリカ全体を色々と見てる中で、日系企業の皆様方が、正直アメリカ市場では思ったような活躍ができてない場面も多いな、というふうに思うことが非常に多くありました。

 もちろん、今日のプレゼン云々ということではなくて、是非皆様方にお伝えしたいなと思いましたのは、海外の、世界の色々な地域、あるいは国、あるいはアメリカの中でもアメリカの中の地域によって、市場への入り方というものが全く異なります。今日は、皆様色々分析されて、この地域に、競合他社との競争状況等も含めてリソースを投入した方が良いのではないかというプレゼンを拝見しておりました。他方で、実際のそのビジネスをお考えいただく時には、そのさらに先の、各地域の市場に入っていくためのアクションとして何が必要なのかというところが、非常に重要であるとことを、ロサンゼルス駐在の3年間の中で痛感してきた次第です。私は役所におりますけれども、民間の皆様方とも色々な接点がありますので、また次の機会に、そういったお話も含めて意見交換をさせていただきながら、新しい政策を作っていければと思った次第です。

 本当に、各賞受賞の皆様を始めとしまして、本日ご参加の皆様方、非常にいいプレゼンを拝見させていただきました。

 ありがとうございました。お疲れ様でした。



株式会社 経営共創基盤

取締役マネージングディレクター 木村 尚敬 様

皆様、大変お疲れ様でした。それから、優勝、準優勝のチームの皆様、それからファイナルに残った方、今日来られた方、大変お疲れ様でした。先ほど、3か月間お疲れ様でしたというコメントがございましたけども、これ実はキックオフは1月末に事務局と実施していたので、そういう意味で本来は半年間お疲れ様なんですね。今回は119のチーム、530名の方にご参加いただきましたが、私はそのケースの作成段階、それから119チームの予選の段階からずっと携わっていますので、そういった意味では、ここにいらっしゃらない方含めてフィードバックをしたいと思います。

実は去年のエントリーは160チーム程度で、エントリー数が50近く下がっているんですね。これは10回目で飽きられたこともあるかもしれませんが、ケースが難しかったため今回はやめておこうと判断した方がいたんじゃないかと思っています。ということで、来年はちょっと策をひねり、面白度も難易度も上げていけるよう事務局の方と一緒に頑張っていきますので、よろしくお願いします。

  まず、119チーム全体の講評で申し上げると3点あります。1点目は農機という物は、やっぱりグローバル×ローカルなんですね。ということで申し上げると、地域ごとの違いというものをしっかりと市場面でも数値面でも分析しなければいけないというところがあって、ここが割と浅かったチームが非常に多かったです。

それから2点目が、短期の打ち手と長期の打ち手の両方をつくることが肝要という話です。後ほど冨山さんから、両利き経営の話、いわゆる新しいものを探索していくことと、既存の事業を深化させていくことの両方が必要という話があると思います。しかし、皆さんは、ぶっ飛んだことを色々述べていて、これはこれでいいんですが、みんな筋肉ムキムキになりたいけど今何やるんだっけっということが書かれてないチームが結構多かったです。つまり、足元をしっかり見るところが欠けていたチームが結構多かったように思います。

 それから3点目は、農機は機能材であることに加えて、1回買ってからずっと使う耐久材という側面もあります。そうすると、ユーザー側のエコノミクスという点では、買って終わりではなく、当然メンテナンスもありますし、農業というビジネスを考えた場合はそれ以外にも色々な物を購入したりとか、色々なお金の使い方があるわけで、ユーザー側のエコノミクスを考えた上でどういうふうな打ち手を考えたらいいのかが肝要になります。この三つの視点が非常に重要でしたが、セミファイナルまで残られた20チームの皆さんは、この目線が比較的強く明確に出ていたというように思っております。

 あとは、ファイナルのところで申し上げますと、短期的な打ち手については、どちらかというとフォワードルッキングになります、今ある問題に対してどうやって対処していくかということが経営課題となります。それから、将来を俯瞰して中長期的な打ち手を考える場合は、バックキャスト的な視点があってもいいのかなと思います。

 具体的に言いますと、僕がこの会社の社長だったら、月次の経営会議でまず何をするかというと、間違いなく地域別、それから商材別、要はプロダクト別の売上高とか利益の状況を必ずチェックするはずなんですね。ところが、おそらくファイナルに残ったチームも、地域別の分析はされていたものの、地域×プロダクトで分析されていたチームってなかったと思うんですね。目先の数字を真剣に追う身であるとすれば、そこに一番関心が強くて、そこのトレンドで見えてくるものっていうのが必ずあるはずなんですよ。本来であれば代理店か直営店でこれも見たいですけど、ここまではデータがなかったのである意味しょうがないのですが、地域×プロダクトではデータがあったのでそこはしっかり掘り下げてもらいたかったっていうことですね。

 バックキャスティング的な視点で考える場合、データの分析から見えてくるところもありますが、いったん全体を俯瞰して事業全体のエコノミクスという視点でどういう事業なのかっていうことを考えることが極めて重要です。機能材の主要なマーケットはこれから中国・インドも含めたアジアになってくるので、メイド・イン・ジャパンっていうジャパンブランドのブランドプレミアムが基本的に通用しません。同じ機能で安い値段だったら農家の皆さんは普通に中国製やインド製の農機を買います。加えて、やはり技術型・キャッチアップ型のビジネスなので、日本の技術が先行しているときは日本企業の物を買いますけども、後からどんどんキャッチアップされていきます。ですから、今でも日本企業が高いシェアを持っているのは、コンバインの難しいものや田植え機だとかになりますが、汎用型のトラクターみたいに誰でも作れちゃうものは、もう日本企業のシェアは低いはずです。ほとんどもうキャッチアップされているので。

 あと、小物のプロダクトが結構増えていくので、ものづくりでありながらも、やはりローカルベースでの生産、それに紐づく固定費が極めて高くなるということを考えることが、まず事業の前提になるわけですね。そうなったときに、長期的な目線で考えると何ができるかっていうと、一つは超ハイエンドでいく。これは徹底的に無人機等を研究開発し続けるということですね。

 ただ、これには三つ問題があって、一つ目は敵方もキャッチアップしてくるので常に市場が小さくなり続けていくという問題です。二つ目は、冨山さんも言っていましたが、研究開発費がものすごくかかります。それを小木製作所の体力でできますかっていう問題があります。また、ガチで中国のローカルメーカーやインドのローカルメーカーと戦っていくことになるため、これをやろうと思うと、僕も質問しましたが、品質保証部が絶対文句を言ってきます。そんなローカルの品質では出せないと。5番目のチームが、エンジンを中国のメーカーと相互間でやり切るって言っていましたが、実際、あれを本当にやり切るのが正解なんですけど、それができてない日本のメーカーはたくさんあります。やはりダブルスタンダードでどこまで戦えるかっていうのが、大きな問題になってきます。三つ目は、やっぱりサービスのモデル化というか、物を売るだけじゃなくてどうやって違う形で儲けるかっていうことがあります。ここら辺を考えるとひょっとしたら今のうちにマヒンドラ&マヒンドラに出資してもらうとかね、もう筆頭株主になってもらって4割ぐらい株持ってもらって、研究開発投資や技術の補完を全部やるっていうぐらいの思い切った大転換をすることが大きな経営的な打ち手の一つなのかもしれません。だから、そこら辺の会社の形、資本の形、全部ひっくるめて、何が一番勝ち残っていけるのかっていうことを、冷静に考えるのがいいのかなというふうに思った次第です。

  最後にいつも申し上げているんですけど、皆さん多分このケースに50時間とか、100時間とかすごいお時間を使われたと思うんですね。是非、残りの学生生活でも、残りのケースも同じぐらい時間を使って真剣にやっていただけると、周りが非常にこの後刺激を受けます。是非、これからも頑張ってください。どうもお疲れ様でした。ありがとうございます。

 


株式会社 経営共創基盤

代表取締役CEO 冨山 和彦 様

改めまして、皆さん、ご苦労様でした。今回で10回目ということですが、最初からずっと携わってきて変遷を見てきた僕から言わせると、だんだんケースはオーソドックスになっていて、その分、逆に難しくなっています。例えば今回のような機能材で製造業ベースのオーソドックスなケースですと、審査員が持っている知見と皆さんの知見の非対称性が大きくなってしまうため、審査員側がとても有利になります。だから、厳しい突っ込みを受けた人には申し訳ないですけど、そういうこともあると。また、そういう意味では、相対的に難しくなっているので大変だったと思いますが、逆にここまで持ってきたということは本当に立派なことです。僕はレベルが足りていないと質問しないことにしていますが、皆さんの出来が良かったため多くの質問ができたので、今日は割とインスパイアされ非常に楽しかったです。

 あともう一点、今日の本選まで進んで最後のグランドファイナルのプレゼンテーションまで届かなかったチームもいますが、一応、優勝、準優勝を決めなきゃいけないということだけで、実力差は誤差みたいなものです。ですから、今日ここにたどり着いた人はみんなウィナーだと思っていいです。その辺は、皆さん誇りを持ってください。

 その上で総評・講評に入ります。実はこのケースは結構、普遍性を持っているケースであり、このビジネスの背景には、グローバリゼーションという現象と、デジタルトランスフォーメーションという第4次産業革命的な話が二つともかぶってきています。これは今、こういうハードウエア系の産業に全部共通していますが、何をもたらすのかというと、要するに経済がグローバル化すればするほど、そこで現実に行われているビジネスは、意外と単純なグローバルビジネスではなくなっていって、マルチナショナル、マルチローカルビジネスになっていっちゃうんです。おそらく日本の自動車メーカーからすると、30年前の自動車ビジネスは、もっと単純なグローバル産業でした。日本で同じモノを作ってバーッと世界中に輸出しているだけですから。

 ところが、今どうなっているのかというと、自動車産業っていうのはむしろマルチナショナルビジネスに変わっています。ですから、1000万台クラブとかって言っている人がいますが、あんな概念はほとんど意味がありません。要は、はるかにその地域ごとの固有コストの比率が高くなっていて、地産地消型になっているわけですから、1000万台作ろうが200万台作ろうが、大して事業経済性上の有利不利はないです。実際に調べてみてください、スケールと収益性にはほとんど関係はありませんから。だからビジネスとしては難しくなるんですよ。

 また、グローバル展開しようとすると、昔はそれぞれの地域でモノだけ出していればよかったのですが、今はそれぞれの地域でそのサービス網、生産、開発、マーケティングを全部やんなきゃいけないわけですから、こういう時期にマルチナショナルでやるほうが金はかかります。逆にいっちゃうと、あえてマルチでやらなくてもいいんです。グローバリゼーションもいりません。なぜかみんなグローバル化症候群、恐怖心で、グローバルにならないと生き残れないなんて思っていますけどね。

 ちょうど20年前に、小売業でその議論があって、日本中の小売りがウォルマートになるんじゃないかみたいなことを言っている人はいましたが、僕からしたら小売業はもともとマルチローカルもいいところで、そんなことが起きるわけないと言っていたんですね。実際、起きなかったでしょう?日本中、ウォルマートにならなかったんです。つまり現在はその産業が持っている本来の経済特性というものがもろに出る時代になっています。皆さんは今後、色々な産業に関わると思うんですが、グローバル化という言葉の表層的なイメージにごまかされないでください。本当は、その産業はどんなビジネスなのかを考えることが大事です。

 例えば、ウーバーがやっているシェアリングサービス。あれは完全にマルチローカルであり、本当の意味でのグローバルビジネスではありません。だからある国ではウーバーが強いしある国では負けるんです。Googleがやってることとは全然違うんですよ。なので、そこはちゃんと見てもらえるといいのかなと思います。見ているチームには好感を覚えました。

 それから、プロダクトの軸というのはやっぱり重要です。僕がちょっと質疑応答のところで言いましたけど、要はプロダクトのレベルでも、グローバルな経済性の問題とローカルな経済性のどちらが強いのかという議論と同時に、デジタルトランスフォーメーションの問題が絡んできます。デジタルトランスフォーメーションが起きてくるとどうしても製品そのものの付加価値が下がっていくので、そのときに、どうサービスを取り込むのかということに当然なるのですが、サービスを売るというのは一番グローバルな経済性がきかないところです。サービスは本質的にローカルですので、じゃあその中で何をしていくのかを考える必要があります。

 また、サービスになればなるほど、モノからコトへ移ります。最後のチームには、あえて突っ込んだのですが、米作に対して米を作るほうにソリューションを提供するのか、小麦を作ること、大麦を作ることにソリューションを提供するのか、野菜を作ることにソリューションを提供するのか、それともワイン用のブドウ畑にソリューションを提供するのかによって、多分、中身が変わってくるんです。そちらにシフトすればするほど、実はそっちに軸を置いていかなきゃいけないわけで、そこはもうちょっと突っ込んでもらってもよかったのかなと思います。寄り添うって言っていましたが、抽象的に寄り添うって話は多分なくなっていきます。やっていることによって全然違うんですね。むしろその違いが大きくなっていって、それができるかできないかで付加価値を取り込める、取り込めないが分かれてきます。

 ただ、メーカーはどちらかというと、それが下手であり、その理由はやっぱりモノから入ってしまう傾向にあるためです。同じモノを何とか鉄道とか交通とかに使えないか、あっちでも使えるのではないか、となってしまいます。でも、ソリューションに回るということは、相手がやっている機能の一部を置き換えていくわけですから、そこに視点を持っていくということは、多分、グローバル製造業の共通課題なのだと思います。だからソリューションって、口で言うのは簡単ですけど、かなり大きな転換が必要なります。

 それからもう一点、お金の問題について二番目のチームに突っ込ませてもらいましたけど、農業とか林業だからこそ、今の時代ではお金の匂いが大事だと思っています。結局、今、全世界で共通しているのは、農業が儲からないため農業に従事する人が減り衰退しているということです。農業は儲けるのが難しいビジネスなんです。また、日本の農業の危機も、どちらかというと担い手がいなくなっているという問題なんですね。担い手って言っている時点で終わっているんですよ、はっきり言って。要は稼げたらみんなそこに行きます。年収が1000万、2000万になればみんなやるんです。そうすると、もし皆さんの中で今後農業に関わる人がいたら、どうやったら稼げる産業に変貌できるのかということを真面目に考えてください。ここを助けられたら本当に持続的なビジネスになります。

 おそらく今後、同じことが世界中で起きてくるので、そこにはこだわってもらったほうがいいかなと思います。農業系ってつい泣かせる話が多くなってしまうんですね、テレビドラマでも下町ロケット系の泣かせる話が好きなんですよ。あの話は絶対に持続性がないです。泣かせる話で後継ぐ人はいません。お父さんだけでたくさんです。これが人間性の現実です。

 最後に、トータルに考えると、長期的な議論としては、その場で社員に発表するかはともかくとして、単独で生き残りが可能かどうかということを、社長の中の心の発露として話があってもよかったかなって気がします。要は、社員向けのプレゼンテーションの部分と、社長の心の中のつぶやきとして、もうジョンディアに身売りしてしまいますかみたいな話を、プレゼンテーションを分けて用意してもいいような気はしました。

 

続けて、チームごとの話に入ります。最初のプレゼンのチームに関して、分析的にいうと、穴がなくてカラーが良かったなっていう印象を持っています。ただ、個別の施策に関しては、これはもうしょうがないんですけど、やや総花的だった部分があることと、代理店の集約化の議論っていうのは現実ではかなり大変であることが気になりました。代理店集約化は一つ間違えると、売上とかがガタガタに減ってしまいます。これは皆さん、簡単に考えないでください。特にこの手の建機とか農業機械に対して、現実的にはかなり代理店は重要な役割を果たしています。むしろ、代理店を落としてしまった場合、一見それを直営店に置き換えると利益率が増えているように見えるんですけど、多くの場合は減っています。理由は簡単で、直営店だと大体売上が落ちるんです。そうすると、結果的に固定費が回収できなくなって、利益が減ってしまうケースが多いので、今後、代理店施策に関わる際はものすごく考えてやってください。最近、一番、代理店施策で失敗したのは、あんまり言いたくないんですけど、この前株主総会で大騒ぎしていた某機器メーカーになります。あそこが大胆な代理店施策転換をやって、一番いい思いをしたのはライバル会社です。ああいうことが現実にはほとんどの場合起きます。だからここは現実として考えた方がいいかなと感じました。ただ、とにかくエリア的な選択と集中っていうのが一番鮮明だったので、僕はそこに好感を持っていました。また、東南アジアっていうのはいいかなと思いました。東南アジアで一番大きい農業の市場は、多分、インドネシアなんですね。というわけで、毎年、僕はチーム名を付けることにしているんですけど、インドネシア語で、人はオランウータンのオランなんですね。人はオラン。それから魚はイカンっていうんです。魚、イカンのですね。それから、コメ、ご飯。コメは、ナシゴレンっていうでしょう、ナシっていうんです。ということで、人はオラン、魚はイカン、コメはナシ。チーム「テレマカシー」ってことにします。

 

 続いて、2番目のチーム。ここは本当に、すごく色々な夢を長期的に語ってくれていました。このビジネスを当面どうするかっていうことも極めて大事であると同時に、長期的にこういう色々な可能性を考えるということも極めて重要な局面に来ています。こういった問題の難しいところは、長期的な新しい領域の探索や創造は、実際、ビジネスモデルがひっくり返ってからだと手遅れになってしまうということです。だから、早めに色々な形で探索活動を始めないといけなので、それはそれで大事なんです。ただし、いくつかのチームでかなり突っ込ませてもらいましたけど、探索をしていくというのは、実際にそれを事業化していくために、金が要るんですよ。すごい金が要る。金は残念ながら、どっからか入ってこないんですね。既存の事業者の金の最大の源泉は、やっぱり自分の会社のキャッシュフローです、利益です。そうすると、夢を追うためには、足元の地場の既存事業でがっつり稼げるようにしておかないと夢は追えません。これが両利きなんですね。だから既存の事業の延長線上でがっつり徹底的に儲けて、そこから、BCGPPMになってしまうんですけど、がっちりキャッシュをたたき出すっていうことと、そのキャッシュを使って、未来に対して投資をするっていうこと、これがすごく大事になってきます。とりわけ、こういったイノベーションの時代では、新領域に出ていくことがハイリスクなんですよ。毎年どんどんテレビが売れていると、リスクなしで工場をガンとつくることができます。これを借金でやっても問題ありません。だから昔、パナソニックもみんなガンガン借金して、ガンガン工場つくって、アメリカに輸出したんです。これはトヨタもそう、日産もそう、ホンダもそうです。ところが、今どき、こういう時代のグローバリゼーション投資であるとか、こういう時代のイノベーション投資っていうのは、回収できるかどうか分からないんですよ。ということは、借金増になるのは、極めて危険なんです。つまり、未来を手に入れられる可能性が一番高い人は、今儲かっている人なんです。そういう時代になっています。要するに、返せるかどうか分からないような金でやらないと危ないわけでしょう。ていうことなので、そこもちゃんと、この後、皆さん、両方考えるようになってくれたら素晴らしいなということで、チーム名は、ちょっと古いけど「ドリームズ・カム・トゥルー」です。

 

 次、3番目のチーム。優勝したチームですね。多分、分析的にいうと、一番ここが、マルチナショナルアプローチの分析を、ちゃんとやっていたような印象がありました。そういう意味ではすごく好印象です。中長期的な戦略のバランスもすごく良かったです。すごく突っ込んで立ち往生させちゃいましたけど、私の中ではここが1番高評価でした。せっかくあそこまでいっていたので、やろうとしていることと、ファイナンシャルな原資の帳尻が合っているかどうかについて、突っ込ませてもらった次第です。逆に言うと、せっかくお金が足りなくなるってことまでは気が付いていたからこそ、深く確認してしまいました。ちなみに、僕はこういう審査をするとき、例えば会社の中でインターンとかとやるときでさえ、一切手を抜かないことにしています。ですから、今回もうちの若手が説明するときと同じ勢いで突っ込むことにしていたので、ああいうシビアな突っ込みになっているんですが、シビアな突っ込みをしたくなるように思わせてくれたという意味では、大変いい仕事をしたと自信を持ってもらっていいんではないかと思います。なので、短中期的な施策に関しては、かなりダウン・トゥー・アースでリアリティーがあって、僕から見ても使えるものが多かったので、あの辺はちゃんとワークするんじゃないかと思います。というわけで、ちゃんとワークするだろうということで、チームとしては、これもちょっと古いんですけど、またテレビでやるみたいなので、私、失敗しないので「チームドクターX」ということにします。

  4番目のチームは、ここもダウン・トゥー・アースな分析が割とちゃんとしていて良かったです。また、これも質問で確認したんですけど、稲作、コメに着目したっていうのは、すごく高く評価していたんですよ。これは正直当たりだと思いました。さっき言ったように、米作というのは川下型にいって、ソリューションにいくわけで、実は今すごく世界的に注目されています。今日は農水省の方もいらっしゃいますけど、米作というのは単位面積当たりのカロリー生産量は圧倒的に高いんです。ですから、世界の食糧問題を解決する鍵は米作だと言われているぐらいでして、実は米作について色々な研究を世界中でやっています。日本みたいな環境じゃなくてもコメが作れないかということをみんなが検討していますし、米作に特化するというのは、すごく当たりだなと思っていました。ただ、最後はなぜか、中山間部の話になってしまったので、すごく残念でした。くどいようですけど、結局、サービス化とか、ソリューション化するということは、僕はむしろ何を作るかということに特化して、ソリューションを提供していくことだと思っています。それは中山間部的なソリューションもあれば、大農法式のコメに対するソリューションもありますが、多分、色々なところで共通項はあるはずです。そこに特化することによって日本ベースの農機メーカーっていうことの特性が世界中で活かせる可能性があるんじゃないかと思って聞いていたので、すごく残念でした。でもすごく着眼点は良かったと思っています。ということで、チーム名は、これまたちょっと古いけど「米米CLUB」ってことにします。すいません、とにかく、年代的に、ちょっとこの辺が限界なもんですから。米津玄師でもいいかなと、あれも米だからいいんですけど。

 それから最後のチーム。ここが、特化型でいくか、あるいはグローバルでいくかということを見ていたという意味で、産業エコノミクス、ビジネスエコノミクス的には、一番いい分析をしているという印象を持ちました。それからあと、製造原価分析も、正しいかどうかはともかく、かなり掘り下げていて、そういう分野の人がいたのかというくらい相当立派な出来でした。ただ、全体の流れとの整合性なんですけど、トータルバリューチェーンで見た場合に、製造コストのところで戦える部分よりも、それ以外の外側の部分が今後、大事になる流れなんですね。だからみんな同じような議論をしていて、サービスを強化します、メンテナンスを強化しますと言ってるわけです。ただ、あれはタダではできないので、そこには当然、相当の投資をして体制組まないと、実はうまくいかないんですね。それから、そのサービス制を強化すればするほど、地域に色々なネットワークをつくることになります。ネットワークをつくるっていうことは、そこで一つの固定費が発生しますから、商品ラインナップが少ないっていうのは不利になります。どうせメンテナンスをやるんだったら、複数の商品を担いでいる方が、要するに範囲の経済性が効くということです。そうすると、当然、この議論を緻密にやっていくと、もちろん製造コストをコントロールすることは製造業の本質的な鍵なのでこれは大事なことですが、それにプラスアルファの議論としてどうしていくのかっていうところまで発展させて、議論が深まるとよかったかなと思います。残念ながらそんなチームはいなかったのですが、皆さんが実際ビジネスをやるときには、この手のローカルに張り付いている固定費は、とても重くなることに留意してください。Amazonなんていうのは、だからずっと赤字なんです。彼らはそこに競争優位、勝因があると信じてやっているから、ガンガン投資をしていますけど、とても金がかかっています。物流が日本以外は全部自前物流ですから。ということになるので、そこまで深まっているとちょっと面白かったかなって思います。あれだけ製品とかできたら、きっとちゃんとやったらできたはずなので、そしたら優勝したかもしれないって感じはあります。だから最後は、あの流れで来るんだったら、オーストラリアが何かに特化するのかなと思っていたので、だいぶ突っ込ませてもらいました。でも決して、あの視点自体は間違っていないと思います。要するに、製品サービスと特化型でやるとすると、おそらく、地域軸×ソリューションなんですよ。だからある地域の米作とか、ある地域のライ麦耕作っていうふうに絞り込んでいくっていう方向に多分このビジネスは今後なっていくはずです。ですから、すごく着眼点は良かったんですよね。なので、そこはちょっと惜しいなと思いましたけど、僕は実は好感を持っていて、皆さんのチームに2位を付けています。ちなみに、オーストラリアのパースは、私が生まれて初めて行った小学校がございまして。私、パースを愛しておりましてってことで、全然中身と関係ないんですけど、チーム名は「私をパースに連れて行って」。

 

 ということで、皆さん、お疲れ様でした。

 


一般社団法人 日本ターンアラウンド・マネジメント協会

代表理事 許斐 義信 様

皆様もお疲れでございましょうし、既に多くの審査員が講評させていただきましたので私からは、なるべく短時間で講評を終えたいと思います。

さて先ずは自己紹介ですが、タイトル通り日本ターンアラウンド・マネジメント協会の理事長を仰せつかっております。この組織の概要をお知りになりたい方はホームページで調べていただきたいと思います。主に経営破綻に直面した企業やその事業を再生することが主な狙いで再生を支援する組織で御座います。

ある種、特殊な経営問題を扱う組織とでもいえます。さて、私ことですがビジネススクールで教鞭ととっており、約10年位前に公式には退任になりましたが、その折、生きた経営学を続けたいとの希望と当時、MBA終了後も同様の期待を持つ卒業生とで意見が一致して開始した活動が本JBCC創設の動機でした。当時は経産省様や経営競争基盤様など、多様な方々にご協力をお願いして、当イベントを立ち上げるに至りました。そこで、本年度もターンアラウンド・マネジメント協会のメンバーも含めて、たくさんの方々にご協力頂いていて、予備審査および全体の審査を進めることができたこと、改めて関係者に御礼を申し上げたいと思います。

このコンペでもMBAで多用されているCASEを使うことにしたのですが、経営大学院のCASEとの違いは、MBAの学生殿が教員の教材ではなく、思考した生きた経営課題をベースに自作のCASEを教材にすること、そしてCASEリードをするのは教員ではなく、専門家や学生同士でCASEの分析や課題提起を行うことを決めました。つまり経営教育の教材としてのCASEではなく学生が自ら作成した生きた経営を題材にすることですから、CASEは各講座の知識を主題にするのではなく、経営学の各論理を学ぶ材料でもないということになります。つまり扱う課題は科学(サイエンス)と言うより、実務に近い経営問題になります。実務的課題領域を扱うのですから、JBCCCASE分析では、サイエンス的要素だけではなくアート的側面も重視されることになります。従いましてCASE分析の評価も総合経営的視点が不可欠ですし、試される経営スキルは叡智(ウィズダム)を涵養するという命題に挑戦することが狙いになります。経営学でも「叡智は教えられない」のですから、自己学習に最適な場が形成されると言えます。

さて参加者の皆さんとグランドファイナルでCASEの分析をベースにプレゼンテーションに挑戦しただいた訳ですが、そのプロセスで、どのような命題を元に発表を聞いたのかについて若干のコメントをさせて頂きます。

第一は、個々人の解答と比較して各発表会の内容がどうだったのかという質問です。つまり事前に検討してきた解答と何が異なっていたのか、特に自分の解答で触れなかった点はあったのか、それを検証することをお勧めします。

第二は、昨今の世界経済の課題つまりグローバリズムの停滞をCASEからどのように推論するのか、或はCASEの分析でこれらの世界的要因を組み込んでいるのか否か、という質問です。世界市場をベースにした事業再構築の要素として如何に多くの現存する摩擦に応えたのか、感心があります。ECの英国、NAFTAの米国、太平洋の米中そして成長に腐心しているインドや我が国、とりわけ経済問題以外にも農業或は食料問題をどれほど斟酌したのか、改めて問いたいと思います。

第三に、食糧問題と通商問題の関係に触れたのかも、問いたく存じます。食糧問題は実は重要なナショナル・セキュリティの課題ですから、通商摩擦という、つまり例えば米国の輸出管理法(EAA)なども視野に入れた戦略構想にも関心があります。その意味では国内問題と同時に国際問題も、またマクロ問題と同時に企業単位のミクロ問題にも触れるという関心の広さにも興味がありました。

このCASEのプレゼンテーションの場の後懇親会が開催されますが、今回は経済産業省、文部科学省そして農林省からの官僚の方々も聴講頂いておりますので、企業と政治との関係に関する情報交換の場としても利用されることが期待できます。このCASEの関係では農水省では農林漁業成長産業化支援機構と言う組織は近年立ち上がり、経済産業省などとも協調的行動が期待されるなど役所でも大きな変革が進行しているという点にも触れた討議も期待できます。表彰式にもご協力頂いておりますので、御礼を兼ねてご紹介させて頂きました。

いつも話が長いという批判もありますので、この辺りで総評を終わりにさせて頂きます。

 

最後に参加された皆様より、審査員や役所の方々への参加の御礼を込めて拍手をして頂ければ嬉しく存じます。