JBCC2018グランドファイナル審査員 講評


フロンティア・マネジメント 株式会社

代表取締役 大西 正一郎 様

 まず運営の皆さま、そしてご参加いただいたチームの皆さま、関係者の皆さま、本当にお疲れ様でした。
私は今年で4回目の参加となりますが、年々クオリティが上がってきていると思います。
昨年までは、どちらかといえば「再生」がメインでしたが、今年はまさに大手の上場企業の事業の成長がテーマであり、一方で、EV化等の動きの中でまさに過度期にある自動車部品事業のケースであるため、非常にタイムリーで、かつ、難しいテーマでしたが、それをよく皆さまいろいろと検討していただき、素晴らしいものとなりました。
私から1、2点コメントさせていただきます。
ケースでご案内の通り、EV化の速度というのは非常に早くなりつつあります。ただ、一方で、今回のお題である「10年後」にEV化の速度がどこまで進展するかというと、色々と公表されている予測からすると、まだそこまでEVのシェアが大きくなるような予想はないと思います。その中で、今の変化のスピードをどのように捉えるかという点と、もう一つは中国のようなEV化がすごく進むエリアと、そうではないエリアと、世界の中では違いがある状況にある点を踏まえて、いかにバランス良く考えていただけるというのが、今回のテーマの主眼だったと思います。
優勝された神戸大学の本藤チームは素晴らしかったと思います。やはり、どうしてもEV化戦略というとそこだけを見て考えることが多いのですが、経営の場合、やはりその足元の業績、特に他社とのベンチマークの中で良い技術かどうかということ、それから中期的・長期的な視点という中で、ちょうど三本の矢によって短期・中期・長期とバランス良くロジカルに整理されていたのが良かったと思います。準優勝チームも同じように整理されていて大変良かったと思います。
 こういう難しいテーマに皆さま取り組まれまして、お疲れ様でした。今後は、今日の大会までで皆さまがやられたことをぜひこれからの皆さまのビジネスにおいて活かしていただければと思います。
私からは以上です。どうもありがとうございました。


コーポレート・ドクター 株式会社

代表取締役 大川 康治 様

皆様、本日は本当にお疲れ様でした。今年の課題は前のコメンテーター大西さんからもお話がありました様に従来とは大分違っていたように感じました。
製造業で、なおかつ自動車産業と云う技術革新が非常に激しい業界で難しい案件であったと思いました。只、学生の皆さんが技術的な面で一歩踏み込んだ点では評価に値するものと感じております。次回は、システムや技術的な分析を踏まえた上で経営戦略を立てて頂ければと思います。
例えば自動車の電化はEV化が進むと云う前提で全てが組み立てられておりますが、現実の蓄電池の寿命はスマホでも2年位であろうかと思いますが、自動車にも同じ事が云えて1回充電したら10年もつと云う様なところまで技術的に発達していない訳で、その辺りのコストがどう影響するのか研究の余地があるのではないかと思います。
又、ファイナンスについてフォーサイトが充分必要ですが、技術的な方向から経営戦略を立てることも必要だと思います。MOT戦略も考えていただけると経営戦略の視野が広がるものかと思われます。
更にコスト削減をはかる為、IOTを積極的に活用することも考えて頂ければ尚効率的な戦略アプローチが出来るのではないかと思います。
今年は非常に難しいテーマにもかかわらず学生の皆様には頑張って頂いた訳ですが、来年以降も新しいことに是非チャレンジして頂きたいと思います。


DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

編集長 大坪 亮 様

運営委員会の皆様、スムーズな運営を、ありがとうございました。ケーススタディを作られた皆様、今年も面白いケースで、審査員の一人として私も、予習が楽しかったです。
自動車産業は日本経済にとって最も重要な産業でありながら、今後どうなるか誰もわからない状況で、このケースに向き合った参加者の皆様は大変だったでしょうが、知的興奮を味わえたのではないかと想像します。実際、グランドファイナルに進んだ5チームそれぞれがバラエティに富んだ経営計画で、審査もとても面白かったです。
『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』賞を差し上げました、グロービス大岡チームは5チームの中で、特に分析が深く、提示された選択の道は現実的で、納得感がありましたので、同賞に選定させて頂きました。優勝された神戸大学・本藤チームは、総合的に最優秀だと私も評価しました。そして、全チームを通して、提案にオリジナリティがあって、レベルが高かったと思います。


ペルノリカール・ジャパン 株式会社

マーケティングマネージャー 内田 由香里 様

 私はシーバスリーガルの担当として、ブランドマネジメントの観点から会社を見ていることが多いのですけども、本日の課題は経営会議ということで普段、私が見ているよりも二段三段上のところから皆さんのご提案を聞くことが出来て非常に明日からの私の学びにもなるなと思いました。素晴らしいご提案をいただき、ありがとうございました。
 特にシーバスリーガルイノベーション賞をさしあげました本藤チームですが、私が素晴らしいなと思ったのは、会社としてのディレクションをどういうふうに出すかという所だけではなく、そのディレクションをどう落とし込むかという所にも注力されていたんですね。技術革新とかイノベーションというのは最終的には人が起こすものなので、それをどういうふうに人に起こさせるのか?人事だったり評価だったり風土だったりそういったところにも一歩踏み込んだご提案をいただけていたのかなと思い、シーバスリーガルイノベーション賞を贈らせていただきました。すごくみなさん本当に素晴らしいご提案をいただきまして、私も明日から2歩3歩上の企業経営というところから、よりブランドというものをみて勉強してやっていこうと思っています。本当にありがとうございました。本日はお疲れ様でした。


株式会社産業革新機構

専務取締役 三浦 章豪 様

 はい、御紹介いただきました、三浦でございます。
 本日は皆様本当におつかれさまでした。
 私は、去年も参加させていただきまして今回2回目でございます。前職は経済産業省の産業再生課という役所の人間でありまして、今は株式会社産業革新機構という国がほぼ100%に近いくらい出資しているいわゆる官民ファンドにおります。
 前回のケースは割と再生という雰囲気だったんですが、今回のケースはガラッと変わっています。前職で第4次産業革命などのレポートを出すような部署にいまして、大きく構造変化が起こる自動車業界のなかでどのように経営をするかという話で、今回は非常に楽しみにして参りました。特に、中長期の観点で大きな構造変化が起こる中でどうしていくんだろうということころにものすごく関心があって、今日の皆さんの話は勉強になるなと思いながら、聞かせていただきました。
 一点だけ今の自動車業界で起こっている変化について申し上げますと、ものすごい変化が起こっておりまして、EVの点では自動車の作り方や作り手が変わっていきますし、自動運転やシェアリングエコノミーの点では自動車の使われ方が変わってきます。求められる性能が変わることも含めて、自動車の有り方や産業構造が変化していく中で、どうしていくか?というのが中長期のテーマ話だったと思うんですが、そういう意味でいうと本当はもう一息ほしかったですね。自動車業界は現在、ある種空想が入ってくるような世界だと思うのですけど、OEMメーカーも含めて、作り方、作り手、もしくは使われ方と求められる性能が大きくどう変わっていくんだろうか、その未来視点があって中期的、長期的なビジョンが出てくるのかなと思っています。自動車産業は日本の基幹産業でもあるので、そういう観点から国の構造的変化ってなんだろうというのを掘り下げていただけるとさらに分かりやすいのかなと思いました。いずれにしても非常に楽しくプレゼンテーションを聞かせていただきました。どうもありがとうございました。


株式会社 経営共創基盤

取締役マネージングディレクター 木村 尚敬 様

 お疲れさまでした。毎年ケース作成、予選から携わっているので、まず全体講評をさせていただきます。今年度は161チームの参加となり、去年の170チームから若干数は減りましたが、1チームあたりの参加枠が増えた関係で、最終的には681名と過去最高の参加人数となり、盛大な会になりました。
ケースについては、これまでずっと再生系のキャッシュアウトしている状況をどうするか、というケースが続いていましたが、傾向と対策が完璧すぎて、平均点95点というレベルになってしまったため、2018年は大きく戦略を問う方向に振りました。
 戦略オプションなので正解はありません。その中で、皆さんどのように自分たちなりの正解を出すのか考えてもらいました。新規事業系の話、モジュール化の話などがあり、だいたいいくつかの方向性に収斂されていましたが、本日の本選まで進んだ皆さんは、前提も含めた戦略とアクションの一貫性や実現性がありました。逆に、予選を通過できなかった皆さんは、このあたりに不備があったので、提出した内容を確認していただければいいかなと思います。
 1点目ですが、全体として、自分たちのビジョンを語っているのか、経営者の想いを語っているのか、戦略や具体的な打ち手を語っているのか、あるいは将来の技術ロードマップのことを語っているのか、ぐちゃっとなっている提案が多かったです。その理由として考えられるのは、自分達の将来に対する世界観があいまいなためです。例えば、EV化と言ってもいつ来るのか。2030年時点では内燃機関が8割残っているという予測もあるなかで、実際にどういう未来像を自分たちが描くのか、仮説や前提がしっかりしたものがないと、将来の戦略がふらついてしまうので、そこをまずしっかり作らなければなりません。
 戦略のコンポーネントを私たちの会社では、戦場と武器と戦い方と分けており、要はセグメンテーション、誰に何を売るのか?どうやって売っていくのか?を考えます。中でも、今回はセグメンテーションの粒度が粗かったと思います。EV化と言っても地域によって全然違うし、内燃機関もどこが残るか残らないか、メーカーによってもアクションが違う。一緒くたにEV化が来るという議論をするのではなく、もう少しメッシュを細かく切ったときにどういう世界観が見えるかを考えたほうがよかったです。
 2点目に、Tier0.5、あるいはモジュールメーカーとして総合的なサプライヤーになるのか、もしくは専門特化してキーコンポーネントプレイヤーとしてTier2、Tier3であり続けるかが大きな分かれ目であることは、現実世界でも多くのサプライヤーが直面している課題です。このポジショニングを考える上では、自分の身の丈に合っているかどうかを考えてほしいと思います。Tier0.5に行くということは、それなりの開発投資、企業体力が求められてきます。戦略を考えるうえで、本当に自分たちの身の丈に合っているか、お金や人的リソースも含めて、いろいろな面で耐えられるのか、身の丈をしっかり考えてもらうことが大事です。アライアンスについては、質疑応答の中でも質問しましたが、自分たちがアライアンスを組みたいとラブコールを送っても、相手が受けてくれるかは相手次第。アライアンスの議論をするときは、必ず、相手にとってこちらがどう見えるか、組む相手として魅力的かどうかを考えるかを念頭に置かないと、一方的な議論になってしまいます。
 3点目ですが、今日のプレゼンテーションの中で、競合の話に触れたチームはほとんどありませんでした。戦略論を考える上では、主体的にダイナミックに動くプレイヤーとして、顧客と競合、自社があるわけで、自分たちが考える戦略は、競合も考えるはずです。競合がどういうポジショニングを取って、それに対して、自分たちがどういうポジショニングを取るのか? 市場全体、その中での個々の顧客、競合、自社、このあたりがダイナミックにどうやって動くかの見方をしないといけないはずですが、今日プレゼンテーションしたチームのほとんどは、自社とマーケットを1対1でつないでしまっていました。
  普段のケーススタディと違って、皆さん100倍くらいの時間を使ったはずで、非常に学びが多かったと思います。お疲れ様でした。


株式会社 経営共創基盤

代表取締役CEO 冨山 和彦 様

 皆さんお疲れ様でした。
 他の審査員の方々が褒めちぎりましたので、私からはやや辛口なコメントをしたいと思います。学びの場でもございますので。
 先ほども木村さんが話していたように、今回のケースは戦略論のため、ある意味では正解に収斂しない分、難しいと思います。また、業界自体がすごく大きなパイの業界で、時間的にも空間的にも広がりが大きいので、基礎的な勉強を相当しないとこのケースは取り組めません。そのためちゃんと勉強されたうえでケースに取り組んだと思うのですが、大変だったと思います。
私はパナソニックの社外取締役であり、ホンダのイノベーションラボにも関わっており、やや業界サイドのため、実際の提案の最先端にいるということで多少詳しくコメントしていきます。
 一つ目の神戸大学のチームからいきます。一つ目のチームは言いたいことは比較的クリアで、そういう意味では分かりやすいプレゼンだったと思います。他方で、質問の時に突っ込みましたが、今回は既に相当な規模の会社をどうするのかというテーマにもかかわらず、インホイールモータの新規事業立ち上げのピッチや規模について、私の突っ込みに対して応えられていなかった。要はEV化が進んでどんどん既存事業が無くなっていく中で、なおかつ、インホイールモータが立ち上がらなかったらどうするのかということ。経営のリアリズムというのは、自分たちが描いているシナリオの中で一番都合の悪いシナリオの時にどうするか、ということを抑えなければならない。でないと会社を潰してしまう。
 非常に大事なパーツや大事な技術は何か?という話ですが、これは状況によります。ああいう新規事業をやりたいという形で社長に向かってプレゼンを行うならいいプレゼンでしたが。
毎回あだ名を付けているのですが、ベタに一本足打法でやろうとしたということなんですけど、一本足打法って分からないヒトもいるよね。世代的に王貞治って誰だ、みたいな。ちょうど今ワールドカップやっている最中で、縦パス一本で点とっちゃおうという感じなんで、ちょうど優勝したフランスチームで『走れ、エンバペ』ということにします。今朝、優勝しましたから。
 次にグロービスの河野チーム。ここのプレゼンは、実は内容的には無難で一番オーソドックスな有機的な戦略展開として評価しています。逆にいうと長期的なところで冒険はしないという内容に僕に聞こえました。これはネガティブな意味ではなく、ポジティブにそういう風に聞こえました。ただ、やっぱり気になったのは、かなり電子化にベットするという話になっているところ。この会社はエレクトロニクスが全くない会社で、逆に日本の中にはエレクトロニクスという点で世界最先端の会社がいっぱいある。
 例えば、パナソニックの領域に行こうと思ったら、パナソニックはすでに全て持っています。もちろん提携といった選択肢もありますが、ITの領域ですから、そのスピード水準にこの会社の組織能力がついていけるのか、というのは多分すごく大きなテーマで、そこがもう少し掘り下げられていなければ、経営的な判断としては正直不安になる感じはしました。
それから、これは全チーム共通ですが、将来像を議論しているときにプライベートモビリティーの話がよく出てきました。正直言ってこれほどお金にならない仕事はないです。この事業は儲からないというビジネス上の計算があった上で、プライベートモビリティーがそもそも産業としてまだ成り立っていない段階であるという事実があり、なおかつこの会社はもともとモジュール屋のため、エンドプロダクトを作るようなビジネスは向いていません。要は、産業構造が変わる中でどこのレイヤーで勝負していくのか?という点はどうしても外してはいけない論点です。
 トヨタやホンダがなぜものすごく緊張感を持っているのか。例えば電気自動車化に対して緊張感を持っているかというと、必ずしもそれが致命的になるとは恐らく思っていないはずです。むしろ過去、例えばテレビや液晶、ケータイで起きたことからの示唆の方が恐ろしい。いわゆるスマイルカーブ現象が起きて、いくらいいテレビを作っても自社ではなく他のプレイヤーを儲けさせることになったのです。要は、プラットフォーマーのために貢いでいる奴隷みたいになってしまうのですね。そして全く儲からなくなってしまいます。これはケータイの歴史を見てもそうなのですが、要はそういうことです。
 例えば同じようなことが自動車産業で起きた場合、何故かわからないが一生懸命車を作っても、儲かるのはプラットフォーマーのUBERなどのシェアリングやレンタルサービス会社ということになってしまって、自社が全く儲からない、ということになるのが実は一番怖いんです。
 第4次産業革命は言うなればデジタル革命の最終版です。その文脈で考えたときに、自動車メーカーが一番何を恐れているのか、という点は議論から外せないのです。その議論の中で、モジュラーメーカーのポジションはどうなるかというのが今回のポイント。また、仮に電気自動車の波が来ようが来るまいが、もしデジタル革命の波が来たとすると、内燃機関においてもスマイルカーブ現象は起きます。
 そうすると実はモジュラーメーカーは悩ましいところがあります。スマイルカーブということは、モジュラーメーカーは儲かるということなんです。要するに、ケータイ電話とかパソコンの領域で誰が儲かっているのかというと、インテルなどの部品メーカーが儲かるわけです。その中でどうやってポジションを取るかというのは、この本題にとっても極めて重要。だからTier0.5か1.5、場合によってはTier2とか3になってもいいかもしれない。ヘタすると1.5が一番儲からない可能性もある。
 仮にプライベートモビリティーに進出したとしても、この会社のコアコンピタンスを考えると、エンドプロダクト作ってB2Cやって勝てるとは到底思えない。全くその機能がないので。以上のような議論を踏まえると、やはり弱いのかなと思いました。
 止まることと、ビジョンはすごく一所懸命だったので、ここはとても説得力があったので、チーム名の名前は『ドライビングケアフル』ということにします。
 次に、中央大学のチームですが、大きな枠組み論としてはすごく好感を持ちました。既存事業モデルの話とか新規事業モデルの話などはなるほど、と説得力のある議論でした。
 ただ、これも全般的にいえるのですが、この会社は100%内燃機関の事業で構成され、利益が出ている会社です。今ある組織能力というのは、ほとんどがその領域でしか機能しません。なおかつそのマーケットはまだ死んでおらず、グローバリゼーション、特に新興国がこれから伸びる余地がある中で、まだ動きがあります。その文脈において、現状、どんな状況でどれだけまだ儲けられるか、ということに関する経済的な分析をなかったことにするというのは、やはりまずいと思う。
 これから大変だというのはいいんです。それはその通り。しかし、これから大変だというときには二つ考えないといけなくて、既存の技術でやばくなった時の財源はどうするのかということと、代替事業には先行投資が必要で、その資金をどう工面するかです。では、その時のために何が大事なのかというと、既存の技術でがっつり儲けられるということです。したがって、もっと儲けられるチャンスはないのか?という視点はマストです。
ベンチャーでも同じですが、既存企業の化学変化の中における構造変換というのを続けるときには、必ず今ある既存事業の収益をがっつり上げるという課題と、それから新しいサムシングニューによるイノベーション、つまり非連続的な破壊的イノベーションの世界で新しいものを生み出してがっつり収益をあげるという課題を、どう両立できるかというのが実はリアルな話です。これはもうトヨタだろうが、ホンダだろうがみんな共通して対峙している課題で、そうするとやはり、今ここにあるビジネスでもっと儲けられるか儲けられないかという評価がほしい。その論点ではミスしてはいけないということなので、そこはしっかり見極めたほうがいいのかな、という印象を受けています。
 もう一つはモーターメーカーとの統合の話に比重が置かれていたのですが、木村さんが指摘していた通り、相手に振られる可能性や、本当にいいパートナーなのかなど、いろいろあるため、プロポーズは慎重にやらないといけません。全然関係ないのですが、チーム名はドラマ『プロポーズ大作戦』です。
 次はグロービスの大岡チーム。先ほどの中央大と同じように、現状分析とか経済合理性分析に関しては非常に良かった。何故あのような突っ込みをしたかというと、もっと稼げるのではないかということ。そこまでいいところまで来ていました。そういう意味では、今日あった5つの戦略的な選択肢の中で、ひょっとすると10年後にしっかり残っている可能性が高いのはこのチームです。意外とそうなんです。要するに、業界が破壊的イノベーションに意識が向く中で、そこにあまり目もくれずにコツコツじっくりやっていたという会社が気が付いたら生き残っていた、ということは意外とあるんです。
一方で、このチームの弱点は足元をしっかり分析してる分、長期戦略がM&Aとかデータ使って儲けるとかそういう戦略になっていて、分析とのつながりが弱く、なんとなくふわふわしちゃった感じがしました。ただ、現実的に実際すぐやらなきゃいけないことに関しては一番リアリティがあり、超現実主義で非常に良かったと思います。そういうわけで、チーム名は今回のワールドカップで一番現実的な戦い方で優勝した『フランス代表』としました。
 最後、神戸大学本藤チーム。ここは、今日申し上げたような審査員が持っていた色々な問題意識を、一番総合的にカバーしていました。現状と将来、戦略的な広がり、タイムスパンの問題など、戦略立案の上で考慮されるポイントをほぼカバーして、それなりに考えられていた印象があります。そういった意味では逆に突っ込める切り口がいっぱいあったため、質疑応答が大変盛り上がりました。それはそれなりにいい論点に、いいところまで、色々な分析が検討できていたということです。
 僕自身がいいなと思ったのは、コアコンピタンスと組織能力の問題を割とまじめに煮詰めていた点です。今回、実は皆さんが思っているほど資金力の問題はあまりありません。今回のように比較的財務能力が良くて、その気になればまだ収益を上げる余地がある企業の場合、資金力が本当の足枷になるというのは実はそうないんです。むしろ、人的な組織能力のほうが特にこういうイノベーションを起こそうとする場合では大きな制約になります。
また、環境論的な意味合いで競合との関係も重要です、横の競合、縦の競合、斜めの競合もあります。自動車メーカーとも戦っていますからね。これだけ市場全体が伸びている中で、稼働率も上がっているにもかかわらずこの会社が儲かっていないのは、明らかにお客さんの選択が間違っています。恐らく、すごくダサい日本メーカーと付き合っているのだと思います。ダサいというのは、日本メーカーというのは基本的には系列取引モデルで、モノを買うとき、モノの買い方も売り方もコストプラスの考え方なんです。だからROSで5%利益が出ると、必ず原価低減を求められます。今回の企業は独立系の部品メーカーですが、事実上、系列取引の中に組み込まれた商売をしているので儲かっていないと僕には読み取れました。逆に、10%以上の利益あげようと思うと系列取引から離れて、日本メーカー以外に売らないといけない。それはそれで多分儲かりませんが、要するにお客さん周りの課題があります。
BtoBtoCのビジネスでは、最終的なお客さんである皆さんが車を買うときに払ったお金や、レンタカーを使って払ったお金を、OEMやモジュラーメーカーで分配しています。自動車メーカーも利益の取り合いをしているという点で、敵なんですよ。だから、その関係でどう収益を上げられるかっていうことを議論すると、やはり当該企業が持っているレイヤーと組織能力は重要な話になってきます。そこに着眼したという点では今回良かったと思います。
ですが、ここも先ほどのグロービス大岡チームと同じで、やっぱりもう一声、もっと収益を上げられるんじゃないかというところは突っ込んでもらいたかった。あそこまで来たなら、絶対この会社もっと儲かります、もっと儲かるようになればその分をイノベーションに使えます、というところまで突っ込んでいたらよかったなと思いました。関西のチームなので、チーム名は関西弁で『つっこみどころ満載や』とします。
 最後に、全体の議論です。許斐先生の質問とも被りますが、今の自動車業界は、非常に大きな変化、破壊的イノベーションが来かかっている業界だけれども、現実的にはまだ来てない、という問題があります。そういう段階における事業部門っていうのは、実は戦略論的にも、経営学的にも組織論的にも非常に面白い。そういう意味でいうと正に経営者の腕が問われる話です。
 先ほど破壊的イノベーションの恐怖について申し上げましたが、もうひとつの現実として、まだ収益を上げられている、収益基盤がある事業というのは実はとても大事です。そこでできるだけ儲ける、ということが実はいつかやってくるかもしれない破壊的変化に対する蓄えを作ることになります。今日関係者がいるかもしれませんが、エレクトロニクスの世界において、大手電機メーカーとしてある程度原型をとどめて生き残った会社は結果的に日立とパナソニックとソニー、三菱電機の4社しかありません。
では、例えばパナソニックがなぜ生き残れたかというと、非常に大きな要素は「貯え」です。パナソニックは2年連続で8千億近い特別損失を出しました。分かります?2年連続ですよ。1兆6千億ですよ。それに耐えられる貯えがあったんです。儲かる時にしっかり儲ける。だから実は、PLC的な蓄えも大事だし、PL的に安定した基盤事業を持っているということがすごく大事なんですね。
 残念ながら、サンヨーもシャープもそれがなかったので、耐えられなかった。だから、こういう時期だと逆に既存事業の収益をどこまで引き上げられるかを絶対に考えないといけない。ただ、その一方でその既存事業がある日突然消えてしまうことがあるのも破壊的イノベーションです。ですからテレビの事業もそうでしたが、史上最高益を達成した2-3年後に史上最低な状況になる。
 だから、変化が起きるときには多分、皆さん予測はできないでしょう。予測はリニア―に書かれていますが、実際はもっと急速に変わります。そうするとそういう時に次に問われるのは、皆さん多くのチームが描いているようなシフトです。ただ、現実に変化が起きたときには、ああいうモデルというのはできないです。だからもっとライトになると思います。そのため、要はこういう2面性というか、アンビバレンツというか、相矛盾した様相を抱えるというのがこういう時期の経営です。
 そうすると次の問いは、経営能力という意味での組織能力があるのか?というものです。非連続的なイノベーション力というのをフルに発揮しつつ、既存事業の収益を最大化するという努力を徹底的にやらないといけない。不連続な状況に対して、結構連続的な活動をしないといけない。この両面の組織能力というのを企業体として形成していかなければいけません。恐らく今回のケースからのインプリケーションはそこにあるような気がします。
もちろん、その意味では、明日から社長になってこれを実行しろとか、そんなことは期待していませんが、今回のケースっていうのはすごく深いケースです。コンペティションは今日で終わりますが、このケースのように、いろんな経営に、どんな企業でも、これからの時代、同じような局面がそれぞれ起きます。全ての産業が破壊的イノベーションと、非破壊的イノベーションの継続という、その二つのある種、相矛盾するその課題をどう解決するかっていう経営を全ての業界で向き合う必要があります。
 これはグーグルやヤフーでも同じことです。彼らも破壊的イノベーションを前に既存事業を捨てなければいけなくなってきます。例えばマイクロソフトは今やBtoCのOSの会社ではなく、B2Bのクラウドのソリューションの会社です。だから、どの業界でもこの2つの、アンビバレンツな経営、ある種、矛盾する経営は今後、重要なテーマになると思いますので、そこはぜひ持ち帰ってもらいたいです。
 また、毎回申し上げているのですが、このケースコンペティションで今日、ここに残れるチームは皆さん素晴らしいです。ワールドカップ本戦に出られたようなものですので、そこは皆さん、誇りを持って下さい。GFに残れなかった人もグループ予選まで来ましたので、十分誇りを持ってください。大事なことは、学びをどれだけ未来に生かすかです。そこをぜひお願いしたいと思います。
 最後に、実はこのコンペティションの本当のチャンピオンは毎年、事務局です。恐らく、彼らが一番勉強している。彼らが持って帰るものがとても多いはずなので、最後に事務局に、目に見えないチャンピオントロフィーを差し上げたいと思います。どうもありがとうございました。


一般社団法人 日本ターンアラウンド・マネジメント協会

代表理事 許斐 義信 様

 許斐(このみ)でございます。例年は最初にお話をさせていただいておりますが、
 今年の審査担当としての意見提示は、他の審査担当の皆様の御意見披歴の最後の順番になりましたので、提案された多くの皆様の処方箋に関して、総論的意見を述べさせて頂きたいと思います。
 まず1点目は経営学とは何か?という視点からの感想です。
 経営学には確たるスキルや資質が必要という答えがありません。多くの意見を整理しますと、大別して経営はサイエンスとアートの2種類であると言われており、世界中で様々な議論がなされています。アートとは「市場や顧客、社員やガバナンスの対象となる株主や債権者に対して適応性を持つことが重要視され、話が主張正鵠を得ているコミュニケーション力があり、信頼されることでいい経営ができる。」としております。
 一方サイエンスとは、産業構造や事業エコノミクスなどを重要視しております。ドイツはサイエンスだと言い切っている国なのかもしれないので、必然的に、経営についてのアートの価値観を重んじていないとも言えるのかもしれません。
 さて我が国は比較的中庸な立場を取り、アートでもあり、サイエンスでもあると言っております。
 今回のケースで一番印象的だったのはイノベーションに寄った提案が多かった点です。今回のケース企業は人的資源として機械技術や加工技術の人材はいるが、電気ソフトウェア関係の人材がいない会社でした。従いまして、人的経営資源の観点からは、「無理に会社を続けるのではなく、一度会社を辞めてしまう」という案もあってもよかった、というのが私の意見です。
 又は、ブレーキとトランスミッション・CVTという2種の異なった事業を展開していますので、材料も設備も技術も相違する点を捉えれば、いずれかの売却、その資金を次世代事業への資金にすることもあるかと考えます。
 2点目はリスクマネジメントについてです。予想通り経営環境が変化しないとか、企業行動も予想通りには、進まなかった場合、CASE事業はどのような経営をすればよいのか?というオルタナティブやコンテンジェンシープランに触れた提言が極めて少なかった、ことは一考に値するテーマでした。今回の第3の設問のような長期的将来の問題については、経営面での評価は、代替策や対応策が勝負を決めると思っております。
 BASFというドイツの化学メーカーを例に挙げますと、彼らは対中投資に関して、50年分のディシジョンツリーを策定しています。ベスト、モデレート、ワーストにおけるIRRやROIはどうなるのか?ということではなく、中国市場を分析しています。例えば、中国には重油しかないことを踏まえて、石油を輸入したらどうなるか?どんな条件で工場を立て、手を打つか?その種の代替案が、同社の計画には詳細に書かれています。
 また、彼らのディシジョンツリーには、何もしなければつぶれてしまう、というワースト案は存在しませんでした。生起するであろう変化を多面的に勘案しており、こんなにすごい経営計画を立てて企業の存亡を懸けて戦っていることに驚愕しましたし、日本企業はいまだに十分なリスクマネジメント力がなく、経営力に重大な検討領域に踏み込めない何かが欠けている、とも感じられました。その意味で、我々の日本企業には真の意味での経営の力は未だ備わっていないのかもしれないと思わされました。
 今回のケース分析でも、代替案のリスクをどう評価するか?ということをもう少し見たかった、と存じます。
 3点目はエネルギー問題、別けても課題を考慮すれば電力問題です。EV化する上での電力をどう調達するか?というのは非常に大きな論点でしたが、ここに触れているチームも非常に少なかった。Tier0.5や1.5というレイヤーの論点もあったのですが、自動車産業という長大な業界構造において、動力源となる電力は検討すべき大問題です。電力も含めた自動車産業の産業構造が今後どのように変化していくか?を考えた検討や発表も聞きたかった、点です。例えば グローバル視点で市場を考えることも必要でしょう。するとインフラが必要なEVは商品になりにくいと思われます。特に自動車文明が未達のエリアにおいて当面化石燃料が中心であろうし、メカニカルな機構にあって特長は、修理スペアパーツが必要になりますから。それにも触れて欲しいテーマでした。
 4点目は、「選択と集中」論の壁です。2017年6月にGEのジェフ・イメルトが退任になりました。ナインブロックスなどPPMとも総評される経営論の中で「選択と集中」論が広く採択され、現実にも経営判断の主流に位置づけ、進められてきましたが、この種の株主価値主体の経営論はリセットして考え直さなければなりません。PIMS分析から、ポートフォリオマネジメントが生まれ、GEの選択と集中論となりましたが、これに対する確たる代替案はなく、またその明確な中身(根拠)もありません。今後、どのような視点で総合的に経営を考えるか?が皆さんのこれからの仕事になります。
 学校が異なれば、カリキュラムや価値観が違う。よってJBCCのような場では、お互いの刺激にもなります。結局は組織論的にどううまく対応できるのか?を社会全体で解決していくことに、企業経営の真髄がある。ということ尽きます。
 自分はどこの経営的領域がスキル的に強いか。というところを選んでいただいて、そこ焦点を絞り、勉強を更に進めていただいて、あと知らないところは適当にしておいて、協業できる経営の仲間を見つけていただくことをお勧めしたいなと思います。
 最後に、このコンペティションをお手伝いするにあたって2点紹介させて下さい。
 第1点ですが、協賛している日本ターンアラウンドマネジメント協会では、事業再生に関する資格認定制度や学生の論文募集もしていますのでぜひそちらにも挑戦していただきたいなと思います。http://tmajapan.jp/index.html
 また第2点ですが、今大会では来賓として、技術立脚型経営研究会JCTMに所属する自動車部品メーカーのメンバーにも来ていただいております。来賓企業は本CASEと類似の環境編に直面しており、皆様のCASE分析を高く評価しておられました。こちらの研究会にもアクセスしていただけたらと思います。https://www.jctm.jp/
 皆様の御活躍を祈念して、総評と致します。