JBCC2017グランドファイナル審査員 講評

一般社団法人 日本ターンアラウンド・マネジメント協会

代表理事 許斐 義信 様

 皆様ご苦労様でございました。簡単にコメントをさせて頂きます。

まずJBCCで取り上げる経営課題は、学校で色々議論されたり勉強されたりしているものと違う、あえて差別化したものを作ったら良いのではないかと提案をして始まりました。

 

 既存の現象的経営問題は、これがいつも既存の問題を解決すれば次に手を打った良い事業基盤が出来る、というようなシーケンスになっているようには中々行かない。相互に矛盾がある。現象対応的に良い手を打とうとすればするほど将来の事業基盤が棄損するといったことである。それは非常に難しい多元化した問題であるためであり、人の問題もあれば、経営者の問題もあれば、勿論ガバナンス問題もあれば、ファイナンスの問題もあるし、組織の問題もある。さらに言えば事業活動の問題ですから、サプライヤー・顧客・その他リレーションの問題もある。この色々な複合的な問題をどう解決し、問題をどう定義するかというのが大テーマです。

 

 その意味では今回のテーマは難しかったかもしれません。どういう意味かというと、子細にいっぱいデータがあればあるほど答えは段々収斂していくと思うが、今回は若干抽象的なこともあって問題の切り口を設定するのに皆様相当困られたのではないでしょうか。そういう意味では数多くの方がこのJBCCに応募されて、このメンバー以外にセミファイナル審査員をされた方も含めて相当慎重に審査したのですが、もう一つの感想としてはチームごとの差はあまり無かったというのが、我々が言わなければいけない報告かもしれません。厚くなって難しくなって子細になればなるほど、大体ランクが分かれてくるが、今回はそういうことでは無かったと思います。

 

 質疑で簡単にコメントを申し上げましたが、経営には何種類かの問題があってそれぞれ答えがあるので、問題はそれに対する代案を考えるというより回答は自ずと決まっているというのが私の認識でもあるし、現象的に言うとほっといても会社の経営問題は中々起きない。ただどこかで間違った手とか間違ったシステムとか上手くないリレーションが問題を包含している、即ちマクロ・ミクロ・リンケージと呼んでいるが外部環境と企業活動との整合性が問題を起こすということもあるので、そういう意味では今回はケースとしては難しかったかもしれません。問題としては抽象化すると非常に重要な基盤として我が国が直面していなければいけない経営問題になっています。

 

 「本当に良い会社とは何なのか?」とよく質問されます。これは定量的回答ですとキャッシュフローのために少し資金循環すれば良いとか従業員がうまくローテーションしているとか色んなことがあるが、適合性、バランスが取れてうまくヒト・モノ・カネ・技術・情報がうまくリンクしてシステムとしてうまく構成出来ているか、ということの他に、適応力と言っている外部環境とか経営資源の変化に合わせてどう企業が変われるか、この両面のバランスが難しい。

 

 それに舵取りが中々出来ないような、日本企業全体(大企業が多いのかもしれないが)職制別のインタレストや価値観の違いが内部の問題を逆に生んでいる。そういう意味では意外に問題の根源が企業の中にある気もしている。

 

 皆様方は今学校で勉強をしていて、企業から派遣されて勉強されている方もいらっしゃるし、少しもう一回人生を考えようという方もいらっしゃるとは思います。余計なお世話であるかもしれないが、是非外の目から新鮮な目で“企業活動がどうやって見えるか”、そしてさらにはマクロとミクロがどう関わるべきか、という所まで配慮して、卒業まで期間、ちょっと曲がって物事見て、広い目でもう一回再定義されることを祈念致しまして私のコメントに代えさせて頂きます。皆様から色々と面白いお話が今後あると思いますので、私はこれ位にさせて頂きたいと思います。

 

株式会社 ドリームインキュベータ

執行役員 三宅 孝之 様

 昨年に続き2回目の審査員をさせて頂き、今年も大変楽しませていただきました。

 昨年はこの場で、成長戦略が全然ダメじゃないかという厳しいコメントをし、来年(つまり今年)は来年よろしくお願いしますと言ったつもりでこの場に臨んでおります。その結果が実際拝見してどうだったかを全体の講評とともにお話しいたします。

 

 今、皆さんの発表に対して、「既存事業の見直し」、「成長戦略」、「プレゼンテーション」という3つに分けて、それぞれ、◎、◯、△、×の4段階くらいで私が評価をしたものが手元にあります。

それによると「プレゼンテーション」は、ほぼ全員◯か、場合によっては◎という評価で、皆さん本当にクリアで良いプレゼンだったなと思います。一方、「既存事業の見直し」は、◯から×まで、大きな差がついております。そして問題の「成長戦略」は、一番評価の高かったチームですら△です。まだまだ厳しいなと思ったことと、今年も「既存事業の見直し」で結果が決まってしまったなと思いました。

 

 ただ、よくよく見ると、「既存事業の見直し」の点が良いチームは、「成長戦略」の点も割と良いという傾向がありました。そういう意味では、「既存事業の見直し」であろうと、「成長戦略」であろうと、チーム力がきちんと反映されているのかなと思ったり、もしかしたら「既存事業の見直し」で経営のリソース配分を真剣に考えたチームは、「成長戦略」のポイントが見極め易くなったのかなと思ったりしました。

 

 いずれにしましても、ドリームインキュベータとしては是非、成長のところをより強くしていただけると嬉しいので、私どもが書いた本をファイナリストの方にプレゼントいたします。参考になるか全然わかりませんけど(笑)、勉強して頂ければなと思います。

 

 ありがとうございました。

 

       

フロンティア・マネジメント 株式会社

代表取締役 大西 正一郎 様

 皆さんどうもお疲れさまでした。

 私は今年で3回目の審査員を務めさせていただきます。やはり年々ですがレベルも上がってきているし、特に先ほど三宅さんが仰ったようにプレゼンテーションのクオリティが非常に高い、それから毎年そうですけど、財務的な論点、新規事業の論点そして既存事業の論点といった3つの論点に対するウェイト面でも多くのチームは非常にバランスが良かったのかなと思っております。

 それから例年のケースと違って、今年は、先ずその「借金が無い」会社であり、急速にこの一年で業績が落ちてきて今後どうなるかわからない、といったケースですが、これは結構最近多いケースです。私どもの会社も再生というよりはこんなようなパターンのクライアントが増えてきており、その意味で、現在のご時世を象徴した非常に良い事例なのかなと思いました。

 その中で思ったのが、よく中長期戦略とあるのですが、最近痛感するのは中期戦略と長期戦略とは全く意味が違うということです。まぁ短期というと多分1年ぐらい、中期というと多分3年もしくは5年くらい、ところが10年もしくは20年の長期となると、その戦略は全く違う様相が見えてくるのです。例えば今回の会社の場合のような家具製造販売業態の場合、IKEAさんの猛攻、そして、もう一つはどこかのチームに指摘がありましたけど、Amazonを中心としたeコマースによる家具業界の席巻というようなおおきな環境変化がある中で、本当にこの会社が生き残れるのかと考えると、長期的にはなかなかやっぱり大変なのかなと思います。

 その意味では、今回の場合に何が正解かというのは無いのですけど、長期戦略という視点からすると、多分その北欧のいわゆるコアの強みを生かしていくだけでなく、どんどんこれまでにない新しい家具を製造していかないといけないはずですし、もしくは、家具業態の本業そのものをスイッチするぐらいの大胆な発想で経営をしていかないと厳しい業界なのかなと思います。この会社は、幸いなことにまだ借入も無いし、財務面でもまだこの時点では体力があるので、やっぱり長期的な視点から、そういう大胆な発想を取り入れたとしたらもうちょっと違った絵もあり得たのかなと思います。

 それで最後ですが、優勝したチームは、いろいろな面で非常に素晴らしかったですね。私も最後にポジショニングに関する質問をさせて頂きましたが、現在のポジショニングの中でどのように競争で戦うのかという質問に対し、必ずしも、現在のポジショニングに囚われない切り口でやるという回答は、或る意味そういう見方も正しいのかなと思いました。まぁ結果的には、第三者から見ると、価格面やデザイン面で会社の特徴を捉えられることもありますが、多分この年商数十億のサイズの企業ということを考慮すると、そういう価格やデザインで分類された従来のポジショニングに捉われない戦略での生き残りの道もあるのかなと思いました。優勝したチームも素晴らしかったですが、他のチームもそんなに甲乙つけ難いくらいに良かったと思います。

 本当にお疲れさまでした。また是非、私は来年もこの場に参加させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

コーポレート・ドクター 株式会社

代表取締役 大川 康治 様

 今回は前2回に比べて課題が難しかったのではないかと感じております。

 一般的な債務問題ですと債務調整により資金繰りがある程度改善しますが、本事例では銀行からの借入、即ち銀行債務がないので全体の見方も変わってくると思います。

 償却前営業利益(EBITDA)をどう改善していくかが重要なポイントとなります。

 

 資金繰りを改善するために売上を増やす一方、支出を抑える必要があります。費用の削減を図らなければならないからです。

その為には人件費の削減によるコスト削減が必要になります。

 更に、家具業界全体が環境変化に曝され、パラダイムシフトが起きております。

 

 将来の生き残りを賭けるためには短期の資金計画も大切ですがそれ以上に将来を見据えた確かな経営戦略を立てて着実に実行していくことが大事ではないかと思います。

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

編集長 大坪 亮 様

 皆様お疲れさまでした。最終審査委員を務めるのは2回目ですが、昨年と同様にとても勉強になりました。

 総論としては、1位、2位のチームの内容は、頭抜けていました。資金繰りについてはグロービスの3チームはしっかり分析されていて、素晴らしかった。

 1位、2位以外のチームの提案は、例えばクラシックとか50~60代の女性向けの製品開発は、現実的に考えると有効な策だと思うのですが、たまたま横山チームと久堀チームが似たような形で発表されてしまったので、独自性という面で相対的に損をしてしまったという印象です。

 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー賞は石田チームに差し上げましたが、本当にこれで収益が上がるのかなとか、もし自分がこの会社の従業員だったらブランド毀損のリスクなどがあって不安だなとも感じましたが、独自性と成長可能性は大きく、前向きに評価しました。以上です。ありがとうございました。

ペルノリカール・ジャパン 株式会社

マーケティングマネージャー クリスティアン エルンスト 様

 皆様お疲れ様でした。

 私も3回目ですね、毎年こちらに来て色々なビジネスケースを聞いています。

今年のビジネスケースは、いつも以上に困っている会社のビジネスケースになりますので、

 本当にもう、気が重くなる、大変だねというケースなんですけれども、やはりマネジメントスキルということであれば、ビジネスのターンアラウンドは最もビジネススキルになると思いますので、面白いビジネスコンペティションだと思います。

 本当に毎年オーガナイズしている方はすごい努力だと思いますので、ちょっと拍手をお願いします。(拍手)

 本当に素晴らしいコンペティションなんですよ。

 毎年シーバスリーガルイノベーション賞はこちらで提供しておりますので、本日の一番イノベーションを感じた提案は、やはり、家具レンタルのアイディアが非常に良いと思います。

 困っているときはリスクを取ることが必要であり、後はちょっと新しいアイディアが必ず必要です。ファイナンスとか、計算とか、経理などを行うのは大事なのですが、やはり困っているときはリスクを取るのが大事です。

 新しいアイディアも大事で、家具レンタルは非常にイノベーティブだと思いました。人の家よりも、コマーシャルスペースを考えたほうが良いかと思います。

 例えば、飲食店や、それか最近流行っているAirbnbとか、それらを考えると、特に2020年の東京オリンピックを考えると、ホテルスペースが足りていなく、Airbnbのスペースが非常に大事になるので、その時家具レンタルは非常に役に立つと思いますので、ナイスアイディアです。本当におめでとうございます。

 ありがとうございました。

経済産業省

産業再生課長 三浦 章豪 様

 私は今年初めて参加をさせて頂きました。実は異動してきたばかりでですね、2週間前にこういうものがあって出てくださいと言われまして、ビジネスもしたことのない役所の人間がケースを審査するってどういうことと思って今日来たんですけれど、現状をきちっと分析して、それに対するソリューションを見出していくということは色々な仕事に共通の話なので、今日は本当に色々と勉強になったなと思います。楽しませて頂きました、どうもありがとうございます。

 その上で、2点だけコメントを述べさせていただきたいんですけど、1点目はですね、皆さん、こういう問題があるのでこう解決するんだという部分はとても分かりやすく、上手く説明して頂いていたと思うんですけれど、それら全体を紡ぎ合わせてみたときに、大きなストーリーとして正しい方向に向かっているのかどうかという部分をもっと説得的に言うと更に良くなるのになあと感じる場面が幾つかありました。先ほど大西様が中期戦略と長期戦略は全然違うという話をしていて、私も仕事柄、前職でITエレクトロニクス業界を見ていて、例えば私が見ていた業界で言うと、GEとかシーメンスって本当に10年単位で物事を考えているなという印象を持っていて、彼らの経営戦略ってすごく分かりやすいし大きいんですね。世の中が大きく変化していく中で、モノ自体からシステムサイドに付加価値が移動していく中で、自分たちの強みを活かしてどの分野を攻めるのか。エネルギーとか医療とか、今後伸びるようなところを掛け合わせて大きな戦略を立てていて、これを10年がかりでたぶん実施してきて、準備ができたのでIoTと言い出している、というようなことをやっています。それに対して日本企業は、会社によってすごく考えているところもあれば、そうでないところも、と色々あるのですが、総じて言うとやはり目線が3年くらいに落ちていないかな、というのを前職ですごく感じていたものですから、そういうことととも掛け合わせてですね、例えば今日の話であれば、家具業界がどうなっていますかというだけではなくて、世の中全体として見たときに、大きな時代の流れの変化としてはこういうものがあって、それを背景にして、自社の強みを掛け合わせるとこんなことが出来るという、すごい骨太なストーリーをもう少し更に工夫して語って頂くともっと面白い話になったのではという気がします。

 それと少し重なる話なのですが、私から見たら若い皆さんがせっかくやっているので、特に中長期的なソリューションについて、もっと大胆でチャレンジングなものが出てくると更に面白かったかなという気がします。例えば海外でも良いですし、IT系の話でも良いですし、フロンティアは色々なところにあると思うんですよね。家具業界だけで見るととてもシュリンキングマーケットでその中で汲々とどうパイを奪い合うかということだと思うんですけれども、フロンティアを探しに行くという目線で全く違うことを考えると、もっと色々な発想があったんじゃないかなと思いますので、今後益々色々なことを考えて頂ければと思います。

本当に今日はどうもありがとうございました。

株式会社 経営共創基盤

取締役マネージングディレクター 木村 尚敬 様

 大変お疲れ様でした。私は毎年ケース作成から予選の審査含めて最初から最後まで関連している人間としまして、ファイナリストの5チームの方だけでなく、エントリーいただいた170チーム全員の方にコメントを残したいと思います。今回が8回目になりますが、さすがに傾向と対策がしっかりしていて、かなり予習をされているので、いわゆる分析はできていると思います。今回のケースでいうと、例えば資金ショートしちゃうよねというところは多くのチームが見逃さないでしっかりやれていたのかなと思います。この後冨山がかなり面白いコメントを入れてくれると思うんですけど(笑)、前段で申し上げますと私の感想は3つほどありまして、「スポ根ドラマに出ているナルシズムのお兄ちゃんが、全部乗せラーメンを食べている」という感じですね。

 まず全部乗せラーメンって何を言っているかというと、皆さん、これが課題だって6つ、8つと並べるのは正しいんです。ですが、それに対してオウム返し的に1個ずつ打ち手を返しているんですね。これはこうします、これはこうします、これはこうしますって。ただ皆さんの会社で経営トップが「当社の課題は10個あります。1個ずつこれをやります、これをやります」っていう話を聞いたらどう思われますか?課題っていうのは必ず因果関係、連関もあるし、それから業績に与えるインパクト、実行する難易度、緊急性などに応じて必ず優先順位があるんですね。竹中平蔵さんが言われる改革のセンターピンっていう言葉がありますが、まず、これをやると。で、これをやったものが波及効果としてどうつながってくるのかっていう、連関性を求めて語っていかないと、全部やるっていうのは実際問題難しいので、やることのメリハリをどう効かせるのかっていうのが全部乗せラーメンという話ですね。

 2つめはナルシズムっていう話ですけど、皆さん非常に面白い戦略を立てられていて、私もなるほどなって思ったところが多いですけど、申し訳ないですが、多くの方がやっぱり自己中心的なんですね。戦略を実行するときは必ず市場とかお客さんの動きもあるし、競合の出方、動きもあるんですね。戦略というのはあくまでダイナミズムの中で語らなければいけないので、相手がどう出てくるか、その中でお客さんがどういう反応を示すのか?例えば、バーゲンセール・在庫処分をした時のお客さんはどうするのか?店舗を移転した時にどういう印象を持たれるのか?競合はどう出てくるのか?といったあたりを考えて、具体的な戦略を考えていただければよかったかなと思います。究極的には誰のどんな困ったこと、お困りごとを解決するんですか?というのが戦略なので、そこら辺をメッセージとしてできるだけクリアにすることが重要かなって思った次第です。

 最後、スポ根ドラマっていうのは、実際のリアルビジネスにおいても戦略は作るものの数字は“エイヤ”な会社が多いんですけど、皆さん時間がなかったからしょうがないと思うんですが、やはり戦略と数字がつながっていないケースも若干あったのかなと思います。実際に方針転換していくには戦略が具体的な施策に展開されて数値目標に展開されない限りは組織は動きませんので、そのあたりの連関性を持って、気合と根性だけではなくて、綿密に落とし込むプロセスっていうのが大事かな、と思います。

 最後にこれに関連してですけど、毎年申し上げていますが、やっぱり財務3表との関係性ですね。同じ打ち手でもPLに効くケース、BSに効くケース、CFに効くケース、全部違います。今回のケースでいうと特にBS的な問題はないですけどPLが悪くなって資金ショートしそうな状況なわけですね。例えば、在庫を処分するということは、CF的にはいいですけどPL的には一時的に利益が悪化する可能性があるわけです。会社のイシューにとってどこが問題で、今どこの打ち手をするか、財務3表がつながった形で打ち手を連関させて考えていかないと、やや全体感の無い打ち手になってしまうケースもあると思うので、十分留意してください。私が申し上げたのは全てリアリティという点で、ちゃんと何が重要なのかを考える、誰の何を解決するのかという戦略を考える、それからそれを施策と数字につなげる、ということです。リアルビジネスをやる上では重要なポイントだと思いますので、ご参考にしていただければ幸いです。どうも皆さん大変お疲れ様でした。

株式会社 経営共創基盤

代表取締役CEO 冨山 和彦 様

 冨山です。みなさん、本当にお疲れ様でした。

 今回は史上最高数の170チームが参加したので、既に会場にいるだけで8.5倍という倍率の激戦を潜り抜けており、さらに、その中の5チームですから、皆さん十分に祝福されているので、今日はあまり優しいことは言いません。ちょっと厳しめのことを言いたいと思います、皆さん十分に褒められていますので。

 全体総括ですが、今まで何人かの審査員が言われたように、まずは現状認識、分析がとても大事です。正しい診断がなければ、正しい処方箋はあり得ないので、しっかりやっていかなければいけないですし、明らかに8年間でレベルが上がってきていることはその通りです。ただ、現実のビジネスで実際に使えるレベルの分析かどうかで考えると、ファイナリストは概ねそのレベルをクリアしていると思う一方、まだセミファイナルの段階では結構レベルのデコボコがありました。いくつかのチームはそれが原因でグランドファイナルに進めなかった可能性があるような気がするので、皆さん、折角、今日参加されたわけですし、是非振り返ってみてください。

 まず現状分析でやることは、分ける化と見える化です。数学的に言うと微分です。それともう一つは、世の中の大きな環境といったような、メタ認知的なある種の積分的発想で微分をもう一回見つめ直すということをやらなければいけません。マクロな話とミクロな話、それぞれにどれだけクリアカットに、今起きていることがわかるかわからないか、そこはとにかく皆さん一生ビジネスに関わっていく以上、つきまとう問題なので、ここの足腰はしっかりしなければいけないですし、ビジネススクールで学べることのうち、恐らく一生絶対に役に立つのはこの部分です。これは、とにかく全ての出発点なので、そこはぜひぜひよろしくお願いします。

 次に、このケースではある種戦略論的な中長期的な課題が重要論点として隠されています。今回、短期的な資金繰りネタというのは、親切にケースの中に書いてあったので、皆さんあまり引っかからなかったですが、実は今回は中長期戦略が難しい事案なんですね。ひょっとしたらビジネスモデルが消えかかっているレベルの問題の深刻度なのか、それともマーケティング戦略レベル、マーケティング上のポジショニング、あるいは商品のコンセプトというところで解決できるレベルの問題なのか、ある意味ではもっとオペレーショナルに旗艦店を閉めるか閉めないか店舗戦略レベルで片付く問題なのか、実はこの深さをどう捉えるかによって、問題の本質的な構造が変わってきます。そういう観点で言うと、例えば、仮にビジネスモデルが消えかかっているのであれば、この彼らのポジショニングで店舗型SPAが成り立たなくなっている可能性があるので、そういった話も出てくるかなと思いました。ひょっとしたら、予選段階であったかもしれないですけど、本選ではそれがなかった。コトに行きましょうというのはわかるのですが、コトで儲けるビジネスモデルは結構難しくて、他の産業でいうと、普通はサービスやメンテナンスにいくわけですね。ですが、家具で、サービスやメンテナンスでどう儲けるのかという話になる。むしろ、先程のシーバス・リーガル イノベーション賞のところであったのですが、レンタル事業にいった方が良いかもしれないし、実はその辺がどうなのかをずっと聞いていて、もしビジネスモデルが消えかかっているとすると結構問題は深刻なんですね。

 ちなみに、数字をちょっといじってみると、確かニトリやイケアと比べると、この会社の資産回転は倍ぐらい遅いですよね。資産回転が倍遅いとすると、同じレベルの利益を上げようと思ったら、実はこの会社の粗利は倍くらいないと無理なんですよ。ただ、粗利は結構既に良い線とっていますよね。もしこれが、倍になったら粗利100%になってしまう訳だから、それがあり得無いとなると回転を上げるのかとなります。例えば、ニトリとかあの辺りよりも回転を上げるのはえらい大変。敵は回転で商売しているわけなので。さらに、割と中価格帯で結構手をかけて売る提案をしているので、むしろ回転が下がってしまう可能性があるんですね。そうすると意外と答えがなくなっている可能性がある。というのも、店舗型SPAは、粗利と回転、平米あたりの粗利、それから顧客一人あたりの粗利で設計が決まるビジネスモデルだからです。構造的にどういう事業モデルにするのかという議論の掘り下げがもう少しあったら、もっと面白く聞けたかなという感じがします。こういう時に、急激に売上が落ちているのは、ひょっとしてビジネスモデルが消えかかっているからではないかという恐れがあります。だとすると、かなりそこに手を打っていかないと実は10年後に消えてしまっている可能性がある。人件費の問題も、ひょっとするとあの低い人件費で、この程度の資産回転でやってきたとすると、言ってみればブラック企業モデルです。あと、人件費を抑えないと回らないモデルで今までもやってきた可能性があって、これはデフレ時代だったら成り立ちますが、今後は、人件費はこちらが上げなくても間違いなく上がっていきます。皆さん人件費を上げると優しいこと言っていますが、放っておいても上がっていくので、そういう意味でもビジネスモデルが消えてしまう可能性があるので、その辺の掘り下げがあっても良かったかなという感じは正直しています。

 こういうAI、IoT第四次産業革命の時には、消えるビジネスが色々なところで出てきます。ひょっとすると、もう自動車組み立て産業も、少し危うくなっているわけです。消えるということは生まれるビジネスがあるということなので、そういう視点を持ってもらえたら、皆さんがこれから会社に戻っても、あるいはこれから起業するにしても、とってもヒントになるようなケースだったのかなと思います。

 それから最後に、もし仮に戦略モデルなり、事業モデルなりを大きく転換していくということになると、当たり前ですが、そこに組織能力がついていけますかという問いに対峙します。皆さん、人の話をしていたので、意識しているということはわかりました。そこは丸です。ただし、その多くは平均的な社員のモチベーションアップとかモラルアップという話になっていたので、それって本当かなと個人的に思いました。これはどれだけ組織能力の転換というか強化の度合いが厳しいかによりますが、もし仮にビジネスモデルあるいはかなり戦略の深いところで転換が必要な場合には、今いる人が頑張ったからといって何とかなるのか、あるいは、ひょっとするとラインワーカーではなく、経営幹部層に相当異質な人を補強していかないと、いくら現場のガンバリズムで能力を引き上げても厳しいのではないか、と正直思ったりもしています。準優勝チームの商品を高回転していきますという話も、例えば、高回転で商品を開発して送り出していくというのも相当組織能力の改革が必要で、おそらく今一番それが出来ているのは良品計画とかアイリスオーヤマですが彼らはめちゃめちゃシステマティックにやっています。これを実現するには、かなり深い組織能力のシステム的向上と個人のレベル向上とトップマネジメントのレベル向上が必要で、そこまで持っていくには結構大変なので、そういった意味ではまだちょっと平板な感じがしました。

総評をまとめると、経営には現状認識における微分する力とそれを短期と中長期戦略に組み立てる積分の力の両方が求められるので、今回は微分力はかなり良い点をつけますけれど、積分が難しい事案だったので、そこを皆さんもう一度勉強して頂ければ良いのかなと思います。

 

 最後に、チーム別の総評と毎回チーム名をつけることになっていますので、発表順にいきます。

 グロービスの三井さんのチームですね。ここは現状分析を網羅的にちゃんとできていて、その中からある種イノベーティブな色々な攻めの施策が並んでいました。ただ、並んでいる施策がちょっと多く、かなり大変なことをやろうとしている印象でお腹いっぱい感があり、社員が聞いていると「こんなに色んなことやんなきゃいけないの?」という感じになってしまうかも。ちょっと過剰満腹感があったので、関西弁になってしまうけれど、「てんこ盛りやね」っていうのがチーム名。

 次が、グロービスの横山チーム。このチームは、現状分析をしっかりしていて良い印象を持ちました。ただ、そこから先の戦略展開がある種おしゃれモードに入っていて、一見きれいにまとまっているのですが、現状分析の厳しさと施策がある種こじんまりきれいにまとまっているところのギャップがかえって気になってしまう感じがします。あそこまで現状分析をしたのであれば、先程言ったようにそもそも事業業態として大丈夫なのかと。多分、業態ヤバいなと思っているから、カフェと組むという発想になっていますが、カフェで全部解決するのは無理なぐらい分析では業態が結構重篤な生活習慣病にかかっている印象だったので、そちらを掘り下げていったら、もう少し迫力のあるプレゼンになったのかなという気がしました。ただちょっと気になったのは、確かお父さんである会長に辞めてもらうという話でしたよね。これは正直なかなか大変だろうなと思ったので、チーム評とは全然関係ないですけど、チーム名は「骨肉の争い大丈夫?」という名前に。これ笑いごとではなくて、こういう会社が潰れる原因は戦略論ではなくて、骨肉の争いがはじまって、それで手の打ちようがなくなって潰れるケースって実は結構多いのです。本当に首を取りにいった方が良い場合は取りにいかなければいけないですが、そこで生じるコストは結構馬鹿にできないので、皆さんの中にもひょっとしたらオーナー企業の方もいらっしゃると思いますが、そこは割と冷静に考えて作戦を組まないといけません。

 次は、神戸大学の石沢チーム。このチームも現状分析をしっかりしていると思いました。多分、このチームも現状分析をしっかりしている分、業態的に厳しいと思ったので、おそらく思い切った新規事業にいきましょうということになったのだと思います。そこは割と途中まで僕も同感で聞いていたのですが、正直なところ、コアコンピタンスから見た時にこれいけるのかというところが荒っぽい感じがして、それでみんな票を入れづらかったように思います。当たり前ですが、新市場かつ新商品という出方なので、これはほぼ起業に近いアントレプレナー的チャレンジングになるので、業態ヤバいという突っ込みが浅い中で、新規事業に行ってしまうと逃げている印象を与えてしまいますよね。業態本体に対して、もう一つ二つ深掘りして、どうするのかという問いに対して、割とアピーリングなことを言った上で、ある種付加的にああいうビジネス開発もやりますと言った方がちょっと印象が違う感じがしたと思います。本体のことがあれぐらいの浅さで、それで仏具の方にいってズッコケたら多分会社自体が昇天し、天国へ行ってしまうので、多分そういう危うさをみんな感じたのではないかという気がします。昔、エリッククラプトンのヒット曲で「Tears in Heaven」というのがあったのですが、それに合わせて「Business in Heaven」というチーム名にします。

 次はマギルの久堀さんのチーム。ここも現状分析と改善的な対応策に関してはすごく良く出来ていました。野球のスモールボールという感じで、ちゃんとバントとフォアボールを拾って、つないで確実にできることをやっていきますという基本構造です。あえて言えば、ちょっとチャレンジしたのはカフェとのアライアンスですが、カフェとのアライアンスにあそこまで戦略的な負荷をかけてしまうとそれに耐えられるのかなと正直思いました。ある種クイックヒット的に色々なことをやっていくということには好感が持てたのですが、カフェはカフェでやっぱり非常に激烈な競争がある世界なんですね。ですから、あの議論に持っていくのであれば、むしろ業態転換的な、業態をかなり進化させるという議論で、カフェとして競争力のある世界を作るという話があるともう一つ二つ説得力が増したのかなという感じがします。繰り返しになりますが、改善的な色々な施策に関してはこのチームが一番緻密に詰め込んでいたので、そういうリアリティ的な意味で好感が持てたチームで、僕は割と高めの点をつけています。そういうフォアボールを拾ってバントで送って確実にホームに帰すという意味で言うと、高校野球のモデルなので、「もうすぐ始まる夏の甲子園」というチーム名をつけました。

 最後、グロービスの西沢さんのチーム。こちらが優勝チームですが、現状分析から施策の流れが一番キレイに流れていたと思います。流れの良さというのは説得力にもつながるし、九州のエリア撤退という考え方もひとつの極めて合理的な発想なので、わりと自然な感じでひっかかりなく聞けた印象があります。これはとってもGoodです。あえて文句をつけると、わりと改善的な施策体系のところまでは、すっと流れて、僕も腹に落ちて聞けていたのですが、最後の戦略的選択というのが、質問にも出ていましたが、これで本当に競争優位を構築できるのかというところがちょっと弱いというか、要はあそこで展開、想定している戦略論に従って、本当に持続的な収益モデルを構築できるのか、マネタイズができるのか、やらないと差別化されてしまうのはわかるのですが、あれが本当に障壁になるのかというのは、正直ちょっと疑問に思ってしまいます。例えば、デジタルマーケティングで、データ量でいえば、どう考えてもニトリやイケアの方がデータ量を持っているわけですよ。競争とは比較の問題なので、デジタルマーケティングで勝負して勝てるのだろうかとか、ひょっとしたらこのぐらいの規模ならむしろ感性に訴えた方が良いのではないかという質問をしたくなったのですが、要は競争とは比較であり、相対的な関係なので、いくら10アンダーで回っても11アンダーの選手がいたら全英オープンを勝てないですよね。そういう世界なのです。色々やるべきことをやっているという意味合いはわかったのですが、ある種競争戦略として成り立つか成り立たないかという突っ込みというか、掘り下げというのは、もう一つ二つ頑張ってもらえると、このビジネスモデル大丈夫なのかというところにいったかもしれないですよね。ちょっと時間なかったので力尽きちゃったのかもしれませんが、くどいようですが、今回のテーマ、デジタルマーケティング云々を聞いていると、これ結局店舗要らないんじゃないの?と聞こえてしまうわけ。店舗で頑張る為にデジタルマーケティングなのだけれど、デジタルマーケティングをどんどん掘り下げていったら、あるいはデータマーケティングを掘り下げていったら、実は店舗である必然性が段々消えていって、例のプロジェクションマッピングとか使って云々というのもひょっとしたら店舗要らないのではという話に段々なってくるので、その掘り下げまで出来ていると、もうこれは文句なしという感じのプレゼンテーションでした。

チーム名は「マイケルポーター、カモン」です。

 色々言いましたが、今回のテーマは、実は深さと広がりを持っているテーマです。皆さんがこのケースにチャレンジした成果として、一つの学びとして、また皆さんのビジネス、あるいはこれからの人生にもフィードバックしてもらえたらいいかと思います。逆に言えば、この会社がピンチになっているということは、実は他の所にいっぱいチャンスが生まれているということなので、個人としてはこの会社を助ける側に回るのか、或いはこの会社を倒しに行く側に回るのかは、どっちも有りです。皆さんがそれぞれ選択できるわけで、とっても面白い時代が来ていると思うので、そういった意味でもこのケースからの色々なインプリケーションを生かしてもらえたら良いですし、さはさりながら、やはりちゃんとお金が回っていかないと会社は潰れてしまうので、ビジネスというのはものすごく地に足がついたものです。JBCCの参加者は、大学院一年目の人が多いらしいので、まず初年度はそういうことをちゃんとビジネススクールで勉強してもらえたら嬉しいなと思います。

 最後に、このプロジェクトの本当の影のチャンピオンは毎回実行委員の皆さんです。おそらく、ビジネススクール的な、教科的な意味でもこのケースを作るのが一番勉強になり、かつ大変な工数を使ってやってくれたはずなので、最後に私の方からも実行委員の皆さんに「本当にありがとうございました。Great jobでした。」という言葉を贈って終わりにしたいと思います。どうもお疲れ様でした。